ロードバイクのホイールに使われているベアリングの素材が、しばしば話題に上がることがあります。
スチール、ステンレス、セラミックなど、一体何がそんなに違うのか疑問に思うことがあります。
そこで今回はホイールのベアリングについて、「素材」にスポットライトを当てて考えてみましょう。
ロードバイクのホイールにおいてセラミックベアリングは少数派
ロードバイクに限らず自転車は、回転力を動力源としてしています。
ペダルを漕いでクランクを回転させると、その力がチェーンを伝って車輪を回転させ前進する仕組みになっています。
そのため、クランク(ボトムブラケット)・ペダル・ホイール・ハンドル周りなどの回転部分には、回転軸と軸受けである「ベアリング」が内蔵されています。
自転車のベアリングには小さな球状の「ボールベアリング」が使用されており、コストの関係もありほとんどがスチール製です。
ただし、一部のハイグレードのホイールには、回転力の強化のためにセラミックベアリングが採用されています。
また、ベアリングには耐久性を上げるために、粘度の強い潤滑油である「グリス」が不可欠です。
今回はホイールの話ですが、ホイールには中央のハブの中にベアリングが内蔵されています。
ホイールによって、ベアリングの取り付け方法が異なりますので、違いについては後述します。
ロードバイクホイールのベアリング支持方法の違い
ロードバイクのホイールに採用されているベアリングは、ボールベアリングとお伝えしましたが、ボールをハブに支持する方法が異なります。
「シールドベアリング」はベアリングとグリスを樹脂や金属のシールで覆いますので、基本的にはメンテナンスいらずです。
ただし、ハブに直接圧入しますので、一度入れてしまうと取り出すのが困難でありトラブルがあればほぼ交換になります。
「カップ&コーン」ベアリングは金属のカップをハブに挿入し、そこにグリスと共にボールベアリングを配します。
その上からコーンでふたをするようにして、支持します。
ふたをするといっても密封されるわけではないので、定期的にグリスを盛りなおす必要があります。
また、ボールと軸の当たり具合を調整することができるのも、シールドベアリングとの違いです。
そして、今回のテーマはこのハブに使用されているベアリングを、スチール製からセラミック製にしたらどうなるかです。
まずは、セラミックベアリングが使用できる条件を確認してみましょう。
ロードバイクのホイールでセラミックベアリングを使用する条件
ロードバイクに使用されているベアリングは、お伝えしているように球状の「ボールベアリング」です。
ホイールやタイヤにも同じ原理ですが、球状の物質は変形することでパワーロスに繋がります。
セラミックベアリングは、スチールに比べれば硬いので変形しにくくなります。
それが、セラミックベアリングを使う大きな理由ですが、これには1つ条件があります。
セラミックは金属の中でも硬質な部類なので、ボールを受けるカップ側も特殊な加工をしないと摩擦によって削れてしまいます。
実際にボールだけをセラミックにしたところ、カップに穴が開いてしまった、という状態を画像付きでアップしている方がいました。
かなり腐食してしまったようで、摩擦熱なのか一部が黒ずんでいました。
それだけに、受けとなるカップ側もセラミックを受けられる硬度がないと運用できないことになります。
ベアリングにはグリスが不可欠 だがしかし…
セラミックベアリングは変形しにくので、パワーロスが少なくその分回転力が上がるというのは、物理的にも納得のいくことだと思います。
しかし、ロードバイクのホイールの回転にはもうひとつ大きな抵抗があり、それは「グリス」です。
先述したように、グリスはベアリングの運用上必要不可欠ですが、粘度が高いので当然ながらホイールの回転を鈍くさせます。
しかも、ベアリングの変形によるロスよりも、グリスの抵抗力の方が強いという話もあります。
そのため、グリスを盛って運用する場合は、スチールもセラミックも回転力に大差がないという専門家もいるほどです。
極端に言えばベアリングの素材にこだわるよりは、グリスの量や質にこだわった方が回転力が上がるとも言えるわけです。
ただし、グリスの量を減らせば耐久性が落ちますので、あっという間にベアリングがダメになる可能性があります。
さらに、グリスの粘度を低くするとすぐに飛び散ってしまうので、頻繁にメンテナンスしなくてはいけなくなります。
そのため、グリスの抵抗は分かっていても、運用上致し方なしという結論になってしまいます。
セラミックベアリングを採用しているロードバイクホイール
ロードバイクのホイールでセラミックベアリングを採用しているのは、カンパニョーロとフルクラムの上位モデルが有名です。
カンパニョーロでは「シャマル・ウルトラ」「シャマル・ミレ」、フルクラムは「レーシング・ゼロ」がセラミックベアリングを採用しています。
また、ミドルグレードであるカンパニョーロの「ゾンダ」とフルクラムの「レーシング・3」は、カップに上位モデルと同じ加工がされています。
そのため、現状ではスチール製ですが、セラミックベアリングに換装が可能です。
そして、このカップに特殊な加工をしてあることがとても重要であり、このカップならばグリスなしで使えるベアリングがあるのです。
「CULT」という非常に硬くしかも腐食しないベアリングがあります。
硬いので削れませんし、腐食もないのでグリスがいりません。
そのため、グリスの抵抗が全くなくなるので、セラミックベアリングの性能がストーレートに発揮されるわけです。
ただし、CULTはとても高価ですから、コスパの面で疑問の声があるのは確かです。
ロードバイクのホイールに「CULT」ベアリングはありか?
ロードバイクのホイールでCULTを使用できるのは、現状ではカップに特殊加工を施している上記した製品くらいです。
その中で、フルクラムのレーシングゼロは、ノーマルのセラミックベアリングを使用しているものに比べると、CULTの方が4万円以上高価になります。
グリスなしで運用できるメリットは述べた通りなので、確かに回転力に違いはあるでしょう。
メーカーの謳い文句によると、ノーマルのセラミックベアリングに比べ、約6倍の回転力があると言います。
私は経験がないので、この数字がどの程度のものなのかは分かりませんが、スピードの維持が楽になることは確かなので、巡航速度は上がりそうです。
しかも、坂の下りなどでは、異次元のスピードが体感できるかもしれません。
ただ、それに4万円以上の価値があるかどうかは、個人的な用途やどこに性能アップを求めるかで変わってきます。
瞬発的な加速力や漕ぎ出しの軽さを求めるなら、ハブよりもリムやスポークの方に注目しなければなりません。
また、回転力を上げたいのであれば、転がり抵抗の少ないタイヤに交換する手もあります。
しかもタイヤなら4万円もいりません。
高くても1万円も出せば、上位モデルに手が届きます。
このような話からも、CULTも含めてセラミックベアリングは、万人が満足するようなものではないと言えそうです。
セラミックベアリングにそこまでの優位性は?
今回は、ホイールのハブに採用されているベアリングについて、素材を中心に考えてみました。
セラミックが硬度が高く変形しにくいので、パワーロスなく回転効率が良いのは理解できました。
ところが、グリスという難敵が抵抗として立ちはだかります。
グリスなしで運用できる「CULT」は素晴らしいものですが、ややコスパに疑問があります。
セラミックベアリングについては、本当に必要なのかを慎重に考えて欲しいというのが本音です。