自転車のシングルスピードは坂道に弱いという話は本当か?

皆さんは、シングルスピードという自転車を知っていますか?

文字通り、スピードがひとつしかない自転車、いわゆる単独ギアの自転車のことです。

スポーツ自転車はグレードが高くなるにつれて、ギアの段数が多くなります。
そして、それに逆らうようなのがシングルスピードですが、とても人気があります。

坂道などは、単独ギアでは厳しいような気もするのですが、実際はどうなんでしょうか?

検証してみたいと思います。

シングルスピードの自転車の構造

自転車の変速の仕組みは、クランクについているチェーンホイールと、後輪についているスプロケットという歯車に掛かっているチェーンを、ディレイラー(変速機)で掛け替えることによって変速するというものです。

ロードバイクの場合、一般的にチェーンホイールには2枚の歯車、スプロケットには8~11枚の歯車が付いていますので、後輪のギアが11枚なら2×11=22段変速ということになります。

シングルスピードは、この歯車がチェーンホイールにもスプロケットにも1枚ずつしか付いていないので、ギアが1段しかないということになるわけです。

今回は、スポーツ自転車のシングルスピードのお話をしていきますが、広い意味で言えば、ママチャリなどで変速機の無いものはシングルスピ―ドということになります。

また、シングルスピードには「固定ギア」と「フリーギア」があります。

固定ギアは簡単に言うと、ペダルと車輪が一体化しているもので、自転車が動いている内は、常にペダルも回り続けます。

普通の自転車は、坂道を下るときなどは惰性で進むので、ペダルを漕がなくても済みますが、固定ギアはペダルが回り続けているので惰性では走れません。

一方、フリーギアは、ただシングルスピードというだけで、その他の機能は一般的な自転車と何ら変わりません。

シングルスピードの自転車は坂道が苦手?ギア比の話

多段化しているスポーツ自転車は当然のことながら、重いギアから軽いギアまで、用途に応じて使い分けることができます。

自転車のギアは歯車の歯数で表されていて、チェーンホイールは歯数が少ないギアほど軽く、歯数の多いギアほど重くなります。

後輪はその逆で、少ないギアは重く、多いギアは軽くなります。

シングルスピードはどうかというと、自転車によって軽いギアに設定しているのか、重いギア設定にしているのかは、ギア比というもので判断します。

例えば、チェーンホイールの歯車数が48で、後輪スプロケットが16だった場合、ギア比は「3」となります。
これは、クランクを1回転させたときに、後輪が3回転するという意味です。

したがって、ギア比は【チェーホイールの歯数】÷【スプロケットの歯数】で割り出します。

シングルスピードの自転車の多くは、ギア比が2.4~3.2の間に設定されているので、上記の例のギア比は若干高めということになります。

クランクを1回転させたときに後輪が3回転もしてしまえば、当然ながらペダルを漕ぐには、多くの力が必要になります。

逆にギア比が低くなれば、軽い力でもペダルが漕げるようになるので、坂道の登りや、スタートダッシュをしたいときに有利になるのです。

シングルスピードの自転車は坂道が苦手?

では、シングルスピードのだいたいのギア比が分かったところで、他の多段化している自転車のギア比はどうなのかを確認してみましょう。

坂道やアップダウンの激しい山道などを走るマウンテンバイクには、後輪のギアに36T(歯数の単位)や42Tなどという、超軽ギアが付いています。

チェーンホイールの方は一般的なのが40-36Tくらいですから、計算式に当てはめると、低ギア比は約0.85~1.0となります。

では、マウンテンバイクとは対極にいるような、ロードバイクはどうでしょうか?

こちらは舗装された平坦な道を走ることが想定されているので、さほど軽いギアは必要なく、後輪スプロケットは25Tや28Tが一般的です。

チェーンホイールは50-34Tくらいですので、低ギア比は1.21~2.0ということになります。

高速巡航に適した高ギア比が、4.5くらいまでいくのがロードバイクの売りですから、低ギアはこの程度で十分と思います。

ここで、先ほどのシングルスピードの数値と比較してみると、平均すると確かに少しギア比が高いので、不利に思えます。

しかし、ヒルクライムなどの本格的な山登りは別として、2.4~3.2くらいであれば、街中の坂道で苦しくなるようなことは無いと思いますね。

シングルスピード自転車のメリットは何?

ここまでは、ギア比の面からシングルスピード車を見てきましたが、他のスポーツ自転車に比べて劣勢なのは否めず、支持されている理由は別にあると思われます。

では、メリットを考えてみたいと思いますが、まず何と言っても車重が軽くなります。

ロードバイクと比較しても、変速機周りのパーツが無くなるだけで、1㎏は軽いでしょう。

それだけにギア比では劣勢でも、車重が軽いので、個人差はあるものの、坂道の登りなどでの体感は、それほど変わらないと言っても良いと思います。

また、多段化の自転車は変速機周りのトラブルが、大変に多いです。

特にディレイラーはトラブルメーカーと呼ばれるほどですから、このストレスが無くなるだけでも、大きなメリットと言えます。

あとは、変速機周辺のパーツは基本的に不必要なので、今年(2017年)のシマノ・アルテグラのようなフルモデルチェンジに見向きもしなくて済みます。(メンテにお金が掛かりません)

シングルスピードの自転車は坂道が苦手?固定ギア編

ここまではフリーホイール、いわゆる一般的なスポーツ自転車をシングルスピード化した自転車について考えてきました。

さて、冒頭でもお話したようにシングルスピード車には、もうひとつ、固定ギアのカテゴリーがあります。

代表的なのは、競輪やトラック競技で使用される「ピストバイク」と呼ばれるシングルスピード車です。

競技用のピストはブレーキが付いていませんが、市販されているものは公道を走行できるようにブレーキを装備しています。

先ほども触れましたが、固定ギアはクランクと後輪が一体化していますので、慣れるまでは相当厄介に感じると思います。

坂道の下り坂でも足を止められませんし、クランクが回り続けているので、カーブなどで車体を傾けるとクランクが下の位置に来たときに地面と接触します。

特に下りのカーブなどでガシャっとやってしまったら、大惨事にもなりかねません。

しかし自転車と一体になれる感覚や、やろうと思えば後ろにも走れる面白さなどがうけて、支持されているんですね。

また最近は完成車もそうですが、車軸に左右別のギアを取り付けることができますので、左右をひっくり返せば、固定でもフリーでも使用できます。

シングルスピードに何を求めるか

最後にきて、本末転倒的なことを書いてしまうかもしれませんが、そもそもスピードを求めるスポーツ自転車に、単独ギアのシングルスピードは不利です。

ロードバイクのような高速巡航に適応する重いギア比にしてしまったら、坂道などのアップダウンやストップ&ゴーの多い街乗りには、全く対応できなくなります。

だからと言って低ギアに固定してしまえば、今度は漕いでも漕いでもスピードが出ないので、乗っていて少しも楽しくないと思います。

ですから、高速巡航が必要なツーリングなどを本格的に行いたい人や、軽いギアも重いギアも押しなべて必要になるオフロードを走りたい方は、シングルスピードは避けた方が良いでしょう。

個人的な見解にはなりますが、シングルスピード自転車のライバルは、街乗り仕様のクロスバイクではないかと思っています。

固定ギア専用車は別として、フリーギアが搭載されているシングルスピード車であれば、街乗りに向いていると思います。

また、変速機周りのパーツが無いことで、同じ価格帯でもフレームの素材であったり、他のパーツがワンランク上の物だったりするので、コスパが高いのも魅力です。

シングルスピードは完成車がおすすめです

今回はシングルスピード車を見てきましたが、いかがでしょう?
興味が湧いてきましたでしょうか?

なお、今回は、あえて既存のものをシングルスピード化するカスタマイズはご紹介しませんでした。

なぜかと言うと、シングルスピード化は思ったよりコストが掛かりますし、ギア周辺のパーツを遊ばせてしまうことにもなるので、おすすめできませんでした。

何よりシングルスピード車はリーズナブルなので、完成車の購入が良いと思います。